患者さん向けのやさしい医療情報



産科救急医療
  東京都心でさえも壊滅状態




   


都内8カ所の大病院で受け入れ拒否(不可能)!
医療崩壊もついにここまで来てしまったのか!
都心でさえも医療供給システムは破綻しています。
国民のセーフティネットがほころびています。
都民の皆様、ご愁傷様です。
全国いずこも同じです。誰が悪いのでしょうか?




 
大東京のど真ん中、≪産科医療の最期の砦≫である東京都立墨東病院総合周産期センターでさえ、産科医師が必要人員の1/3ほどしかいないのです。
 墨東病院の場合、
最低でも9人の常勤産科医師が必要なシステム設計です。本来なら2人の産科医師が常時当直しているはずですが、医師の補充もなされず、当日は研修医一人のみが当直していたそうです。常勤医師は3人しかおらず、救急受け入れはまったく不可能な状況でした。
 事実、この
7月1日からは普通通常分娩の中止と普通分娩外来紹介初診を中止しており、近隣医師会(墨田、江東、江戸川)には連絡承諾済 だったそうです。もちろん近隣のすべての産婦人科医院にも東京都にも連絡すみ です。紹介してきたこの開業医にも≪受け入れ不可能≫は先刻連絡済みだったようです。

 
総合周産期センターの看板を下ろすでもなく、人員を補充するでもなく、放置していた管理者(東京都)こそ第一にせめられるべきです。
     →
以前から「看板を下ろしたい、とてもムリだから」

********************************************************
1)東京都立病院における医師の立場・待遇
2)救急医療の現状と問題点
3)マスコミも医療破壊の加害者
4)医療供給システムの欠陥

5)≪非難されるべき≫は、
6)医療現場は≪戦場≫に似ています
7)≪いわゆる医療破壊政策≫
8)結語

********************************************************


1)東京都立病院における医師の立場・待遇

 
公務員の人事体系でいけば、医師はブルーカラーです。事務官こそがホワイトカラー(管理職)として上席であり、医師は≪現業≫と呼ばれる使い捨ての士官兵卒にすぎません。
 
都立病院の医師の給料は、リスクは大きく責任は重大であるにもかかわらず、時給に換算すると、事務官や看護婦よりも安いと言われています。
 労働基準法を遵奉して、週一回程度の当直をするとすれば、
最低でも14人の常勤産科医師が必要でしょう。
 しかも、リスクが大きく多忙な産科医師の給料も当直がなく楽なマイナー診療科
医師の給料も一律です。仕事内容から見て、2〜3倍の給料差があってこそ真の平等です。
 こんな劣悪な労働条件では、医師は逃散するばかりです。新たに産科医師を募っても来てくれるはずがありません。
何もわかっていません。変えようともしません。
 事実、数年前、医師を派遣していた東大産科医局は、医師として労働者として当然の『医療環境の改善、待遇の改善』を要望(最期通知)しました。しかし、東京都は完全に無視したそうです。怒った東大産科医局は医師を引き上げました。その後、急激に破綻したようです。
 病院が破綻する典型的なパターンです。最も重要なソフト改善(医師の待遇改善、労働環境整備)を放置すれば、医師は逃散していきます。この様な劣悪な労働環境が続くかぎり、東京都立病院はどこも、どの診療科も、医師に見放されて急激に破綻していくでしょう。
 (
産科医療は自費です。実際に即して出産費用を5〜10倍に上げたらいいのです。公立病院が安売りするから、産科医療界全体が困るのです。)


2)救急医療の現状・問題点
 救急受け入れ体制を敷いていないかぎり、本来、
当直医は入院患者のためにいるのであって、外来救急まで見る義務はありません。実際上この状況では、とても救急受け入れまで手が回らないのが現実でしょう。
 
医師数絶対不足の状況で、正義感に走り救急患者を受け入れれば、結果が悪ければ逮捕され起訴されかねません。(→福島県立大野病院産科医師逮捕事件
 賠償金めあての訴訟も頻発しています。一方的に患者側に立って、マスコミは事実をねつ造してまでも医者叩きに走ります。医療側の言い分など完全に無視します。検察も司法も患者側サイドに立って理不尽な判断を下すことが多いのです。
 また特に公立病院の場合は別な意味で危険です。現場医師一人の責任になすりつけて勝手に示談したり、病院管理者や上級役人は責任逃れに汲々としています。
(→医師の不足と偏在、公立病院の問題点、逃散
 
ババ抜きのババを誰が引くかというひどい状況です。
 本来なら、医師は皆、このような状況でこそ患者を救いたいと思って医師になったはずです。しかし、現状の医療環境はそんな甘いヒロイズムなどかき消される苛酷な状況です。
システムも法律も、医師を後方支援するものは何もなく、安心して診療するために必要なよきサマリア人の法律すらできる見込みはありません。


 当直医は機転を利かせて、消防庁周産期救急病院ボードで 受け入れ可能となっていた病院を紹介し、
慶応大学病院順天堂大学病院慈恵医大病院慈恵医大青戸病院日大板橋病院東京女子医大東医療センター東大病院日赤医療センターなど8カ所に受け入れを打診したそうです。しかし 、どこも受け入れ不可能と断られました。いずれも東京を代表する大病院です。
 断った理由は様々ですが、おそらく真実はひとつ、
「こんなリスキーな症例を引き受けたくない、引き受けられない」、というのが医師個人共通の本音でしょう? どこも救急部門は大赤字のはずです。最低限の人員で、トラブル発生の恐怖にビクビクしながら、なんとかやっていのが現実でしょう。救急医療が壊滅状態であることが、はからずも暴露された事件です。
 この症例の結果が悪いであろうことは明らかです。だれも逮捕され犯罪者にされたくはありませんし、訴訟にまきこまれたくありません。
 結果的にババを引くはめになったのですが、
墨東病院はやむなく患者を受け入れ、休みの産科上級医や脳外科医、麻酔科医を呼び出して緊急手術を行ったのですが、妊婦を救命することは出来なかったという結末です。
 他のどこの病院であっても、
これ以上に整った体制で緊急手術は出来なかったはずです。
 
急激な病状変化からみて、即入院できていたとしても、救命は難しかったであろうし、たとえ救命できたとしても重篤な後遺症を残したであろう稀な困難な症例であった事が想像されます。

3)マスコミも医療破壊の加害者

 
当直医師に何一つ落ち度はありません。できる限りの手を尽くして対処したのに、マスコミからは非難の嵐≫です。これでは受け入れ損です。そのまま断って文句を言われた方がはるかにましでした。口実をつけて断った8箇所大病院の方が結果的にリスクを回避できたわけです。
 ますます救急患者の受け入れを躊躇することになりましょう。
 無責任なマスコミはどうにかなりませんか。
 
最低負担で、最高医療を求められても出来ようはずがありません。「高負担、高医療」を提唱するならまだしも、入院したら助かって当たり前と誤解しています。また誤解させるようなイメージを大衆に植え付けています。運が良ければ助かりますが、ただそれだけです。死ぬ者は死ぬ、ムリな者はムリです。医師は神様ではありません。全力は尽くしますが、結果はすべて神様です。



4)医療システムの欠陥
 亡くなった妊婦の家族は冷静です。
「医師には誠心誠意よくしてもらった。本質は医療供給システムの問題であり、その改善のためには知事に直接会うこともやぶさかではない。」と発言されています。
   
安心して生める社会に「誰も責める気はない」
 しかるに、
マスコミは、医療システムの欠陥には触れようとせず、現場医師の対応、墨東病院の対応を非難し、問題の本質を掘り下げた真実を報道しようとしません。患者を殉教者に祭りあげる医師パッシングのお決まりのパターンです。医師を悪者に仕立てたお涙頂戴の扇情的な世論操作で、売り上げを伸ばそうとしています。まるで火事場泥棒です。マスコミこそ医療崩壊をまねいた第一級の加害者であるのに、全然反省していません。
 

5)≪非難されるべき≫は、
劣悪な医療環境を放置していた東京都幹部であり、医療福祉予算を切りすてた財政経済諮問会議(政商・御用学者)であり、その後ろで糸を引いた財務官僚です。自民党・公明党政府が強行採決し、厚労省官僚の独善的専制的な通達行政で強制したのです。医師への後方支援システムの整備、法律の整備を怠った立法府の責任でもあります。医療に不当介入し結果責任で医師を犯罪者として逮捕起訴した愚かな検察や理不尽な判決を乱発する常識外れの裁判所(司法)も医療破壊の加害者です。マスコミも同罪です。政府官僚の情報操作の片翼を担いで、大本営発表の≪医療破壊政策≫を無批判に垂れ流し、国民を洗脳し、≪医師パッシング≫を続けてきました。そんな自民党公明党政権を選んだのも、モンスター患者化したのも国民自身であり、皆々反省するべきでしょう。



6)医療現場は≪戦場≫に似ています。
 救急医療は野戦病院です。その場での判断を後で批判することはできません

 
現在の医療崩壊は、戦線を実力以上に拡大し、前線へまともな武器も持たせず兵を送り出し、武器弾薬食料の補給もせずに見殺しにした旧陸軍省官僚の劣悪な戦法そのものです。政治家も官僚も歴史の教訓に何一つ学んでいません。緻密な作戦を練る理系の頭脳が最も必要なのに、観念的抽象的な文系官僚がつぶしてしまいます。
 命令一つで旧軍は動かせたでしょうが、
精神論を掲げるばかりで、兵の士気を高める策も講ぜず、補給路(後方支援)を確保せずして勝てるはずなかったのです。
 
昔も今も、作戦の間違いを常にチェックしその都度正すことを官僚はしません。責任は取らず、無責任にただ前例を踏襲するだけです。乱数表を使った旧来通りの暗号は敵方に筒抜けだったそうです。
 現在において、高等頭脳集団である医師を動かすためには、命令や規制で動かせるはずがありません。反乱し逃散するだけです。
予算を重点配分し、労働基準法を遵奉させ、待遇を改善し、法律を整備し、後方支援システムを構築して、医療従事者の士気を高める戦術を練らねばなりません。


7)≪いわゆる医療破壊政策≫
 大企業の一人勝ち、弱者切りすてに終始した
聖域なき小泉改革のもと、毎年2200億円以上の際限なき医療福祉関連予算削減政策≪いわゆる医療破壊政策≫が閣議決定され、現政権まで続いています。来年度予算でもまたその医療破壊政策は続くそうです。
 すべての医療破壊のもとはこの間違った政策です。
医療関連予算を大幅に引き上げない限り、何をやっても効果が出ようはずがありません。
 天下り官僚や族議員の利権と合法的横領の温床である
特別会計、無数の特別法人には手をつけず、国民一人当たり1000万円にも達する膨大な借金を作ったムダな公共投資予算の削減はなされません。
 (小泉元首相はボンクラ息子に地盤を継がせて引退するそうですが、単なるまやかしの改革であった事をみずから証明したのです。)
 そしてまた、
ボンボン麻生首相は、過去の経済政策の失敗に何ら学ぶことなく、目先の選挙対策ばらまき予算源として、新たな赤字国債を発行して借金をさらに膨らませようとしています。今こそ特別会計に切り込んで、真の行政改革を断行し、ムダを省くべく政策転換が必要なのにです。

 
年金記載不備不正問題、「姥捨て山」後期高齢者医療制度、そして厚労省官僚の腐敗は目に余ります。国民の貴重な年金や健康保険に手をつけて莫大損失をあたえ、自分たちの公務員年金や保険共済はずる賢く別立てにして安全に運用しています。責任を取って年金半額を一律返上するべきです。厚労省官僚の独善的通達行政が諸悪の根源です。施策ことことごとくが現場を混乱させ崩壊を押し進めるばかりです。
 
大臣(シビリアンコントロール)を無視した官僚の専横を許してはなりません。最近の例では、桝添厚労大臣の意向を完全に無視した佐藤医療課長は「医師の強制配置」を読売新聞とつるんで提唱しています。憲法で保障されている基本的人権を無視した独裁的思考です。まるで戦前陸軍省官僚の専横により太平洋戦争に突き進んだことと同じではないですか。現自民党に官僚コントロールが出来ない以上、政権を速やかに交代させて、高級官僚を左遷するなり罷免するなりして権力を奪い、人員を入れ替えるべきです。


8)結語

 
墨東病院の現場医師を非難すればするほど、産科医師が逃散するだけです。徹底的に産科医療システム破壊を進めたいのでしょうか??
それなのに・・・
 
誠心誠意職務を遂行している医師が犯罪者のように扱われ、社会保険庁はじめ明らかに犯罪行為を行っている役人にはお咎めがないのでしょか? 
 おかしいではありませんか。
マスコミは攻めるべき相手を間違えています。
 これでは、
首都東京も産科医療の壊滅はおろか、全診療科の医療崩壊が加速されますよ。
 医療の危機的状況が叫ばれている今こそ、マスコミが原点に戻って警鐘を発し続けなければ、国民が気がついた時、東京はすべて焼け野原となっているかも知れませんよ。

           2008,10,24 初稿




       ********************************************************

産科医療現場の窮状・悲惨さ
    福島県立大野病院:加藤産科医師逮捕・起訴 死亡事故が思わぬ波紋
        大野病院、加藤医師、無罪(2008.8.20):その評価・波紋と医療崩壊への影響
    分娩中意識不明の女性、18病院受け入れ拒否、死亡 
(2006,10,17 岐阜新聞)
    島でお産ができなくなる。隠岐、産婦人科医ゼロへ
    産科医療の崩壊と助産師制度、≪最近の通達≫
    救急飛び込み出産のハイリスク、非常識、費用不払いが高率、
(2007,10,14岐阜新聞)
    産科医療現場の過酷さ、悲惨さ 
2007,10,06岐阜新聞
    飛び込み出産のリスク、費用の踏み倒し、赤ちゃん置き去り(2007,8,31新聞紙上に拾う)
    
モンスター患者・医師の専門性の軽視・治療の規格化 (2008,8,23,岐阜新聞)
    周産期医療の窮状、モンスター患者、モンスター家族 
(2008.9.1.岐阜新聞)

医療の崩壊、破壊、労働地獄
    医療の危機的状況
        ≪人頭払い≫と≪かかりつけ医≫   
        
開業医へ救急医療を押しつけ
        救急医療の回避、よきサマリア人の法律
        
産科医療の崩壊と助産師制度、≪最近の通達≫
        
インターネット(電子媒体)での診療報酬請求を強制
        院内調剤の破綻、医療経営の深刻化
        病診連携は絵に描いた餅
        医師の不足と偏在、地方の医師不足
        大学医局制度の崩壊と地域医療医師供給システムの崩壊
        小児医療無料化政策と小児医療現場の地獄絵図
        全国規模で医師の逃散現象  月刊保団連2006,6より
        医療費総枠拡大のための財源は?
    日本の医療費は本当に高いの?
    日本の医療が崩壊する(三重県医師会)
    医療崩壊をくいとめよ、年金問題より医師確保を

    
モンスター患者・医師の専門性の軽視・治療の規格化 (2008,8,23,岐阜新聞)




  八重のムクゲ 2005.10.3



inserted by FC2 system